昭和人の恋ものがたり

団塊世代の、じじいの妄想話です。

[青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。)) (十)

 シゲ子が夕食時にたおれたと連絡がはいったとき、真っさきに駆けつけたのは小学校3年生になったばかりのほのかだった。
床のなかで苦しげな表情を見せるシゲ子に近づいたとき、弱々しい声で「ほのかちゃん…」と呼びかけられたが、思いもかけぬ反応をみせてその場に立ちすくんだ。
「だれ、だれ…」
 小声で問いかけるほのかで、布団のなかの土色のはだをした老婆は、ほのかの知る祖母ではなかった。
いつも身ぎれいにしているシゲ子とは、まるで似てもにつかぬ老婆だった。
いや、醜悪な物体に見えてしまった。

「シゲ子、シゲ子。ほのかが来てくれたぞ。
良かったな、これでもう元気になれるぞ」
 孝道がシゲ子の耳元でささやく。
かすかに口元に笑みがうかんだ。
布団のなかからゆっくりとしわだらけの手が出て、明らかにほのかを呼んでいる。
「いや、いや!」とさけんだなり、きびすを返して家にもどった。
「ばあちゃんじゃない。ぜったいちがう!」
 なんどもそう叫びながら走るほのかだった。

 長男と次男が、ほのかとすれちがう。
なみだを吹きだしながら、「ちがう、ちがう」と小声でつぶやきながら、走っていく。
2人のことすら目に入っていない。
住宅街のなかを行き交う人にぶつかりながら、「ようかいよ、ようかいよ」と声をのこしていく。
なにごとかと振りむく隣人が、長男に問いかける。
「もうしわけありません」と、長男が頭をさげる。
〝どいてやれよな!〟と、次男が怒りの目をむけた。