「ハアッ?」と、いちおう惚けてみた。
「知ってるのよ、あたし。ナイトクラブに行ったでしょ!」
麗子は、勝ち誇ったように言う。
やはりミドリのことだった。
会社の誰かに見られていたのか。
当然のことかもしれない、会社を出てすぐのことだったのだから。
男は、無言のまま背広を脱いだ。
そしてタバコを取り出し、火を点けた。
とつぜん、麗子は男からタバコを奪いとると、男にしがみついてきた。
麗子は、自分の服を脱ぐのももどかしそうに、男の唇をむさぼった。
突然のことに、男は訳がわからず麗子を押しのけた。
「いまさらなんだ!」と、声を荒げた。
しかし、麗子はおかまいなしに男をおし倒した。
はじめは抵抗をつづけていた男も、しだいに欲情が湧いてきた。
ミドリの顔が、不意に浮かびはしたが、すぐに消えた。
キスをしただけのことであり、ミドリにしても酔いのせいかもしれないと、男は思った。
この先どうなるものでもない、とも。
ふたりして唇をあわせながら、麗子がおとこの服をぬがし、おとこは麗子の服をはぎとった。
麗子の白い肌が 赤みがかっている。男の脳裏に、ミドリの白い肌がまざまざと浮かんだ。
と、きゅうに男の気が萎えはじめた。
「いまさら、なんの用だ!」。 男はベッドから離れ、冷たく言いはなった。
男のたいどの急変に、麗子はとまどった。
たしかに別れのことばを告げた。麗子が、男をみかぎったのだ。
しかし、いや、だからこそ麗子がヨリを戻すと言えば、男がすぐにも なびいてくると考えていた。
わたしを諦められるはずがない、と自負していた。
が、実のところは麗子自身の気づかぬ内に 、男の存在が麗子のこころの中で大きくなっていた。
男との別れのあと、複数人と関係を持った。
皆がみな、麗子のそのプロポーションを誉めたたえ、「結婚して欲しい」と、プロポーズされた。
しかし麗子は踏み切れなかった。
どうしても男が忘れられない、初めての男というだけでは説明がつかない感情がうずまいていた。
結婚生活という実感が、どうしても男以外とではイメージできなかった。
別れを告げたその夜、帰るなり部屋に閉じこもりひとり泣きじゃくった。