昭和人の恋ものがたり

団塊世代の、じじいの妄想話です。

[淫(あふれる想い)] 舟のない港 (三十一)「ハアッ?」と、

「ハアッ?」と、いちおう惚けてみた。
「知ってるのよ、あたし。ナイトクラブに行ったでしょ!」
 麗子は、勝ち誇ったように言う。
やはりミドリのことだった。
会社の誰かに見られていたのか。
当然のことかもしれない、会社を出てすぐのことだったのだから。
男は、無言のまま背広を脱いだ。
そしてタバコを取り出し、火を点けた。
とつぜん、麗子は男からタバコを奪いとると、男にしがみついてきた。

 麗子は、自分の服を脱ぐのももどかしそうに、男の唇をむさぼった。
突然のことに、男は訳がわからず麗子を押しのけた。
「いまさらなんだ!」と、声を荒げた。
しかし、麗子はおかまいなしに男をおし倒した。
 はじめは抵抗をつづけていた男も、しだいに欲情が湧いてきた。
ミドリの顔が、不意に浮かびはしたが、すぐに消えた。
キスをしただけのことであり、ミドリにしても酔いのせいかもしれないと、男は思った。
この先どうなるものでもない、とも。
ふたりして唇をあわせながら、麗子がおとこの服をぬがし、おとこは麗子の服をはぎとった。

 麗子の白い肌が 赤みがかっている。男の脳裏に、ミドリの白い肌がまざまざと浮かんだ。
と、きゅうに男の気が萎えはじめた。
「いまさら、なんの用だ!」。 男はベッドから離れ、冷たく言いはなった。
男のたいどの急変に、麗子はとまどった。
たしかに別れのことばを告げた。麗子が、男をみかぎったのだ。
しかし、いや、だからこそ麗子がヨリを戻すと言えば、男がすぐにも なびいてくると考えていた。
わたしを諦められるはずがない、と自負していた。

 が、実のところは麗子自身の気づかぬ内に 、男の存在が麗子のこころの中で大きくなっていた。
男との別れのあと、複数人と関係を持った。
皆がみな、麗子のそのプロポーションを誉めたたえ、「結婚して欲しい」と、プロポーズされた。
しかし麗子は踏み切れなかった。
どうしても男が忘れられない、初めての男というだけでは説明がつかない感情がうずまいていた。
 結婚生活という実感が、どうしても男以外とではイメージできなかった。
別れを告げたその夜、帰るなり部屋に閉じこもりひとり泣きじゃくった。