「やっと、君のことばに返ったね。
どうも、今までの君のことばは固苦しくていけない。
嬉しいよ」
相変わらずの書きことばだった。しかし麗子には、昔の覇気ある男にみえていた。
「あら、ほんと。久しぶりね、こんな風に気軽に話すのは」
小ぢんまりとした1室にふたりはいた。
いつしか、恋人時代のふたりに戻っていた。
麗子は、男の肩にしなだれかかりながら、〝いままでは肩ひじをはっていたの
ね〟と、久しぶりに心のゆとりを感じていた。
「どう、今の生活は?」
男にしてみれば、社交辞令のようなものだった。
しかし麗子には、痛烈な批判のことばに聞こえた。
「どういう意味なの!」。キッと、男をにらみつけると体をもどした。
あまりの剣幕に、男はたじろいだ。
「いや深い意味はないよ、そんなに尖るなよ。
そういうところは、昔と変わらないなあ。安心したよ、たしかに麗子だ」
麗子は、男に他意がないことを知ると、また身体を男にあずけた。
「麗子」
そのことばが、合図かのようにどちらからともなく、唇を合わせた。
窓からの月明かりに照らし出されるその肌は、きめこまかく滑らかで吸い付くかのごときその肌は、生活に疲れたミドリの肌にはない、輝きがあった。
しばしの間、男は見とれていた。
「すばらしい!」
思わず出た男の本音だった。
そしてそのことばは、麗子の耳に心地よくとどき、ますます麗子を燃え上がらせた。
勝ちほこったような麗子のことばだった。
麗子が思いえがいていたシーンが、いま、ここにあった。
〝男が私にひれ伏している〟。麗子は、言いしれぬ法悦感にひたった。
たしかに夫も、「お前はの身体は、素晴らしい!」と賞賛してくれる。
しかし、男のことばほどに燃え上がらないのはどうしたことか?
男と夫の年齢差だけではない。
飾り物としてあつかう夫と、生身の麗子としてあつかう男との差、とでも言うべきか。
「どうしたの! 時間のしんぱいは無用よ。
主人は出張中よ、心配は要らないわ!」
麗子のそのことばを耳にしたとき、男はやり場のない憤りをおぼえた。
〝俺は、旦那の代用品なのか!〟。
そしてまた、〝俺はいったい何をしているんだ。
ミドリは、俺を信じてくれているのに。
灯りのない部屋にもどるんだぞ〟
男は、すぐにも帰りたいと思った。
ときに罵りあいながらも、ミドリには男なしの生活はあり得ない。
それは、痛いほどに感じていた。
その自負心があればこそ、ヒモ同然の生活をつづけている男だった。
「なあに、景気さえ良くなれば……」
せいいっぱいの虚勢をはる男に、悲しげな目をしつつも「これでいいのよ!」と、うなずくミドリだった。
〝俺に必要なものは、ミドリからの愛情だ〟。
しかしそう思いつつも、空腹時にさしだされたご馳走(麗子の色香)に、抗することはできなかった。